選挙と合戦用語 その3

松波庄九郎様(改変)

 

政党本部レベルの選挙の段取に関する用語 その3

選挙戦の規模に関係する用語

当事者としては進退のかかった大一番の選挙であっても、
急な解散や資金難等で
十分な対応が出来ない場合
もあるでしょう。

また、国政の政党本部レベルの上位組織としては
大局的な見地から応援を出し惜しむものもあるかもしれません。

無論、逆に争点の明確な国政選等の大一番では、
持てる戦力を惜しみなく投入
あらゆる手立てを講ずる筈(はず)です。
こういう総力戦を「本の合戦」(ほんのかっせん)と言います。

そもそも、上位組織が選挙戦の規模の大小を見定めるうえでも
情報収集が必要になる訳です。

こうした前提を踏まえたうえで、
選挙戦の規模や彼我の戦力分析に関係すると思われる
合戦用語を挙げることとします。

なお、今日の感覚からすれば、
見慣れない漢字や読みもチラホラ出て来ますが、

用語のよみがなを、実際に声に出して読むと、
存外、音やリズムでしっくり来るかもしれません。

 

 

小競走(こぜりあい)

両軍対峙(たいじ)しながら、全面衝突ではなく、
部分的に合戦することを意味します。

相手を全面戦争に誘い込もうとしたり、

相手の出方、実力を知りたい時に、
わざと部分的に戦って見せる方法です。

「小攻合(こせめあい)」・「端合戦(はしがっせん)」も似たような意味の言葉。

現在の選挙で言えば、大きな選挙の前哨戦となるような、
国政レベルの政党本部から観た
地方議会や中小規模の自治体首長の選挙等でしょうか。

当事者やその支援者、地元の住民としては、
公約の影響は元より、利益誘導や進退がかかっていることで、

大きいも小さいもなく必死なのだと想像しますが。

 

 

主戦(しゅせん)

戦闘の主体となる部隊を意味します。

現在で言えば、
自分の選挙区が安泰で、
他の選挙区に遊説に廻る余裕のあるような大物候補者でしょうか。

 

 

敵色(てきいろ)

敵情―敵の様子・状態を指します。
色は気配・調子で、旗色・顔色・崩色・備色・負色等、
全ての気配の意や様子を意味する言葉として用います。

方法のひとつとして、足軽を斥候として偵察させます。

主将・部将はこれをいち早く察して軍略を立てる機敏さが
要求されます。

現代の選挙で言えば、
与野党の準備態勢や、争点となる政策に対する世論等が
それに当たるのでしょうか。

報道各社の世論調査に加え、

政党独自でも永田町の内外で
さまざまな調査を行っていることと思います。

 

 

手備(てぞなえ)

旗本備え、つまり主将の陣地の軍勢のことです。

現在の選挙で言えば、
政党の最大派閥の議員やそのスタッフでしょうか。

 

 

二の合戦・三の合戦
(にのかっせん・さんのかっせん)

戦場で緒戦に引き続いて戦うことです。

プロ野球でいうところの
1日に2試合行うダブル・ヘッダー。

三の合戦は文字通り三度目の合戦。

本来はひと合戦あれば互いに息をつくのですが、
休まずに戦い合い、三度も攻防を繰り返すことがあります。

 

関ケ原

例えば、関ケ原のような大規模な遭遇戦の場合は、
当事者は、不意の戦いとはいえ、事の重要さを理解していたようです。

東西の前衛の主力が突撃と退却を繰り返して半日の間に何度も衝突し、
結果として、8000名前後の死者が出たと言います。

戦場に集結した20万弱の軍隊のうち、
大半の部隊が満足に戦っていない中でこれだけの死者が出た訳ですから、

主力部隊同士が如何に激しく戦ったかが想像出来ます。

特に敗者側の石田三成の部隊は、逃げずに陣地を死守し、
有力な部将の大半が討ち死にしました。

 

現在の選挙との比較

とはいえ、現在の選挙戦の場合はあらかじめ日程が決まっているので、

仮に一定の期間に大小の選挙が集中しても、

中央の政党本部は、
選挙戦の規模に応じて、注ぎ込む戦力の配分が出来そうなものです。

 

 

人数組・人数立(にんずうぐみ・にんずうだて)

人数の編成のことです。

選挙区レベルの運動員にも
候補者の擁立の数の勘定にも当てはまりそうな言葉だと思います。

 

 

見せ勢(みせぜい)・見せ人数(みせにんず)

軍容を誇るために
城砦(とりで)に配置して敵を威圧する軍勢のことです。

 

合戦における艤装(ぎそう)工作

実際に動員出来る力がなく、
所謂(いわゆる)ハッタリの場合は
「見せ備」(みせそなえ)と言います。

幟(のぼり)を多く立てたりして艤装します。

人の数だけでなく、物資の量の詐称も行われます。

例えば、籠城側は、米を馬に掛けることで、
城内に水の備蓄があると偽る故事もあります。

 

選挙戦における「盛況」

現在の選挙も、この種の駆け引きがあるようです。

日本もそうかもしれませんが、
むしろアメリカの選挙で行われていることで有名な手法として、

政治家の遊説の際、聴衆の動員があまり見込めない場合、
わざと小さい会場を手配して盛況ぶりをアピールするそうな。

因みに(ちなみに)、先の大統領選挙の際に言われていたことは、
こういう手法の有無はともかく、
ヒラリーに比べて、トランプの演説会の方が盛況であったとのこと。

世論調査で判断が難しい場合のひとつの指標となるかもしれません。

 

 

見繕勢(みつくろいぜい)

間に合わせのために、
一応人数だけ揃えた(そろえた)混成部隊のことです。

指揮下に入っても統制は取れないが、
一応軍容だけは部隊として見えるものです。

 

優先するのは指揮権か頭数か

現在の選挙で言えば、
或る程度の政策の不一致は度外視して結成される
選挙対策のための野党連合がその典型かもしれません。

戦いの際に、質はともかく機動的に人を集めることに意味ある、
というのは、
時代を問わないものだと思います。

なお、似たような言葉に「寄集勢」(よせあつめぜい)があります。
こちらは臨時に徴兵した正規ではない軍勢のこと。
雑多な混成部隊には違いありません。

現在の選挙で言えば、
大変失礼な言い方かもしれませんが、

政党の絶対的な指揮下にあるという意味では、

さまざまな分野から短い準備期間で擁立された
「〇〇チルドレン」と呼ばれるタイプの議員や
そのスタッフの方々がこれに近いかもしれません。

あくまで、私のイメージに過ぎませんが。

 

 

【主要参考文献】
笹間良彦『図説日本戦陣作法事典』
上山和雄『陣笠代議士の研究』
升味準之輔『日本政党史論』各巻
乃至政彦『戦国の陣形』

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です