選挙と合戦用語 その8

KOU2301様(改変)

 

選挙区レベルの運動に関する用語 1
運動戦術に関する用語 2

 

軍神(ぐんしん)

戦に勝つために祈りの対象とする神のことです。

軍神という概念は、
少なくとも平家が台頭する時代からありましたが、

室町時代頃からその数が増え、
「九万九千の軍神」「九万八千の軍神」というような
言い方をしました。

 

信長と謙信と神様

織田信長が、桶狭間で今川の本陣に斬り込む前に、
戦勝祈願のために熱田神宮を参拝しています。

この神社は、
三種の神器のひとつである草薙神剣(くさなぎのみつるぎ)を
祀る(まつる)ことで、

当人の信心はともかく、軍神に祈る一例に見受けます。

もっとも、防諜(ぼうちょう:スパイ対策)目的で
単騎同然で城を飛び出したことで、

落伍した(遅れてはぐれた)兵隊の合流を待つ意図もあったそうですが。

その一方で、上杉謙信の毘沙門天の信仰の場合は
戦陣に自分の信仰を持ち込んでおり、

こういうのを「軍神」と呼ぶのか否かは、
識者の意見を伺(うかが)いたいと思います。

 

選挙の神様

昔から「選挙の神様」という言葉がありますが、

言葉の意味は選挙巧者で、実在の人物を指します。

例えば、戦前では原敬敬や安達謙蔵等、
政党内閣制が定着し始めた大正時代以降の政治家達。

その意味では、昨今の選挙で言えば、
小泉純一郎氏や小沢一郎氏等のような政治家も該当しそうに思えます。

もっとも、信仰とは程遠い気もしますが。

 

鎬を削る(しのぎをけずる)

鎬(しのぎ)とは、刀身の棟と刃との中間に位置し、
断面図で見た時に切る部分に垂直に広がる部分のことです。

太刀(たち)打ち戦で、

刃(やいば)を打ち合わせ、鍔(つば)競(せ)り合いをし、
刀剣の鎬が削れる程の激しい戦い方のことです。

転じて、太刀打ち戦に限らず、
激しい競合(せりあい)のことを指します。

なお、これに因んで(ちなんで)、

単に合戦や戦い合う行為を、
「せり合」(せりあい)・「せり合合戦」(せりあいかっせん)
言います。

現代の選挙戦やその他の政治運動では、

例えば、街頭演説の際に、
過去の政党の離合集散等により候補者同士で遺恨がある場合、

自分の公約の説明はそこそこに
相手の敵対候補者を強く罵る(ののしる)行為でしょうか。

 

城乗(しろのり)

城攻めして城を落とすことです。

城壁を乗り越えたり、
城門を破った後で、馬を乗り込んで城を占領すること
起因する言葉です。

現在の選挙では、選挙区を国や城と呼ぶことで、

与野党交代の機運に加え、

評判の良い新人や、実績のある落下傘候補者の登場、
票田の取りまとめや政党本部の支持の取り付けの成功、

一方では、現職側の不祥事や失政、各種調整の失敗により、

「城」の主が交代する光景を想像します。

近年では、個人的な意見としては、
民主党が与党になった選挙が、この「城乗」のイメージ。

 

取合・地取合・坪戦
(とりあい・じとりあい・つぼいくさ)

合戦場を退却せずに確保することを「芝を踏まえる」と言います。
そして、その合戦場を互いに占領しようとすること
「取合」と言います。

 

桶狭間と川中島

例えば、信長が桶狭間で行ったような、
兵力で劣る側が大将首に狙いを定める戦い方とは異なり、

武田信玄が川中島で行ったような、謂(い)わば面的な支配であり、

どれだけの犠牲を払ってでも戦場に居座り、
その地域での勢力拡大を狙う戦い方です。

 

米大統領選挙における現職の戦い方

現代の選挙で言えば、
例えば、アメリカの大統領選挙の場合、

現職の候補者は、二期目の出馬に際して、

政策的な実績をアピールすべく
選挙の争点の適度な拡大を狙います。

これにより幅広い層からの集票を見込む訳で、
「地取合」に当たろうかと思います。

対して、新人の側は、
自分の得意分野と相手の失政・不祥事に争点を絞ろうとする訳で、

自身のライバルとの差別化は元より、
敵対候補のイメージ・ダウン
それによって発生する不支持者の取り込みを狙います。

この辺りのせめぎ合いは、
選挙戦の醍醐味(だいごみ)のひとつと言えます。

 

 

【主要参考文献】
笹間良彦『図説日本戦陣作法事典』
上山和雄『陣笠代議士の研究』
升味準之輔『日本政党史論』各巻

選挙と合戦用語 その7

hananana様(改変)

 

選挙区レベルの運動に関する用語 1
運動戦術に関する用語 1

 

はじめに

選挙区ごとの立候補者が公示で発表され
選挙戦に必要な運動員と備品が手配されたことで、

いよいよ有権者にとっての選挙期間という枠組みの中での
選挙運動が始まります。

数ある合戦用語の中でも
選挙の花形である遊説や選挙期間中の運動戦術に関連しそうな用語が
特に多いことで、

まずは、選挙期間中の運動戦術に関連しそうな合戦用語
紹介します。

なお、残念ながら、このカテゴリーも回を跨ぐ(またぐ)こととなります。
毎度恐縮です。

 

相備(あいぞなえ)

味方の備え(そなえ:部隊そのもの、戦闘隊形、武具)と協力して、
互いに応援したり応援されることが可能な備えのことです。

戦争における常套(じょうとう)戦術のひとつとして、
ひとつの敵に対して複数の包囲から攻め込む戦い方があります。

敵の反撃の重点を分散させ、
場合によっては弱点を突くことが出来るからです。

逆に、守る場合は味方の死角を別の友軍が守るという具合に、
自軍の総合的な戦力を高める効果があります。

 

関ケ原の様子と、さる選挙区の模様

一例として、関ケ原の戦いの前半戦は、
東軍の前衛部隊の福島や黒田といった諸隊がこれを巧く行い
逆に連携を欠いた西軍に対して押し気味だったそうな。

現代の選挙戦で言えば、余裕のある候補者の行う、
選挙区を越えた応援の遊説に当たるのでしょうか。

因みに(ちなみに)、

以前、私が住んでいた市の選挙区は
当時は与党のさる候補者の地盤の固いところでして、

選挙期間中、その候補者は他の選挙区の遊説に専念し、
地元には一度も帰らなかった、

ということがありました。

 

 

赤備(あかぞなえ)

甲冑から旗指物までを赤色で統一した部隊の備えのことです。

武田家の飯富虎昌や徳川の井伊直政の部隊が有名です。

戦場で特に目立つことで、
武名を誇る代わりに被害担当(敵を引き付ける)の役割もある、
という説明を読んだ記憶があります。

 

戦国時代の実相

また、甲冑を部隊ごとに色分けする理由は、
元々は、五行思想に即した縁起を担いだものでした。

まず、大名直属の部隊が状況に応じて縁起の良い色を決め、
配下の部隊はそれよりは劣る色を、という具合です。

戦国の初期は、陣形もこういう発想で組まれたそうで、
その意味では、呪術的な意味合いが強かった時代と言えます。

また、陣笠や甲冑といった防具は、

足軽・中間(ちゅうげん)・かせ者、といった、
末端の兵隊レベルでは雑多で不統一であったのが実情の模様。

さらに、幟(のぼり)は一定の身分の者しか立てなかったようです。

 

時代や文化等によって異なる、それぞれの色の意味

それぞれの色の意味するところは、
時代や文化等の諸事情によって異なるようです。

例えば、日本の国旗に使われる日章旗の赤色については、

太陽信仰だとか、それと無縁ではなさそうな天下統一だとか、
諸説こそあるものの、

確定的なものはないそうな。

日の丸の旗自体が、
国旗に指定される以前から
さまざまな場面で長く使われたことに起因するのでしょう。

そうかと言えば、フランスの国旗の青・白・赤は「自由・平等・博愛」。

こういう具合で、色にはそれぞれ意味があり、

ヨーロッパの国旗の色は、そうした意味の組み合わせとのことです。
確か、王政の絶対主義に代わる
19世紀以降の国民国家時代の観念だと記憶します。

 

政党・候補者のシンボル・カラー

現代の選挙では、例えば政党がイメージカラーとして使います。

例えば、有名なものでは、アメリカの大統領では、
赤が共和党・青が民主党という所謂(いわゆる)「赤い州・青い州」。

政党ごとに色が決まったのはそれ程古い話ではなく、2000年以降の模様。

また、特に新しいものとしては、先の韓国の大統領選もそうですし、
都民ファーストの会が先の都知事選以降、緑を意図的に使っています。

 

 

位詰(くらいづめ)

優勢な軍隊がその威力を発揮して敵を圧倒することです。
主に、威圧して敵を脅かす(おびやかす)ような行為。

例えば、よく行われた戦法としては、

戦列の全面に騎馬を押し出し、
相手を威嚇(いかく)して戦列を乱させるというものです。

また、有名なものでは、長篠の戦いでは、

織田勢の全軍が到着して布陣を終え
馬防柵(ばぼうさく)を秘密裡(ひみつり)に立てた日の夜に、

空前の数の鉄砲による、空砲の一斉射撃を行いました。

相手を徴発して決戦を促す(うながす)意図もあったのでしょうが。

 

強硬策を示す現代版「位詰」

さて、この「位詰」、
当然、似たようなことは、今でも行われています。

戦国時代を含めた各種戦争は元より、将棋やサッカー等でも、

手持ちの戦力の優位性(主に、数や質)を活かして
自軍を積極的に前に押し出すような戦い方がそれに当たりますし、

商売でも、仕入れを多く、割引率を高くして店頭で羽振り良く見せたり、
相場で注文を多く出して、反対の注文を出す側を威嚇したりします。

 

経済強者の選挙戦術

そのような中、現代の選挙戦では、

運動員の数や資金力にモノを言わせて
敵対候補者よりも多く広告を打ち頻繁に遊説にまわる、
といったことでしょうか。

例えば、先のアメリカ大統領選では、
民主党が富裕な保守層を多く取り込み、

共和党の30倍もの選挙資金を投じて
芸能人を多く動員するなどの大規模な選挙活動を行ったことで、

CNNの「C」はクリントンの「C」だとか
揶揄(やゆ)されていたのを思い出しました。

 

 

【主要参考文献】
笹間良彦『図説日本戦陣作法事典』
上山和雄『陣笠代議士の研究』
升味準之輔『日本政党史論』各巻
二木謙一『戦史ドキュメント 長篠の戦い』
小和田哲男『軍師・参謀―戦国時代の演出者たち』
笠谷和比古『関ヶ原合戦と大坂の陣』

選挙と合戦用語 その6

クッキー様(改変)

選挙区レベルの選挙戦の段取に関する用語

首相が政局と任期の兼ね合いで議会の解散を宣言し
選挙区ごとの候補者が決まったことで、

恐らくこうした中央での動きと並行するかたちで、
それぞれ選挙区において準備が本格化することと思います。

具体的には、選挙戦の責任者や参謀を決め、
選挙対策本部を立ち上げ、巡回ルートを決める、
といった段取が進むことを想像します。

また、選挙活動の指針として、

敵対候補の勢力が強い場合は、
籠城と言いますか、

中央の党本部から派遣された大物議員の応援と連携しつつ、
専ら(もっぱら)自分の選挙区での活動に専念することでしょう。

候補者間の勢力が拮抗し
各政党の党本部の援軍が入り乱れる選挙区は、

選挙戦における天王山―目玉の選挙区として、

まさに、騎馬・鉄砲を潤沢に抱えた主力の野戦部隊同士の激突が必至
「後詰戦(ごづめいくさ)」の様相を呈します。

こうした、公示直前までの選挙運動に入る前の段取について、
関係すると思(おぼ)しき用語を掲載します。

 

陣立(じんだて)・備え立(そなえだて)

陣を張る時に、実際に兵を配置することです。

戦国時代の中頃までは、「〇〇の陣」というのは、
兵の密集や散開といったような状態をあらわしていたのですが、

時代が下って、軍法(=戦法)が発達してからは
「〇〇の陣」(例:鶴翼の陣)というような名称
付けられました。

これを「備え立」とも言います。

ただし、あまり有用性は無かったようですが。

現代の選挙では、
雇い入れたスタッフに役割を割り振る、というようなことでしょうか。

 

陣取(じんとり)・大陣取(おおじんとり)

敵と対峙(たいじ)して陣を確保することです。
大勢で陣地を厳しく固めたものを大陣取と言います。

近年の関ケ原の発掘調査で、
徳川家康の本陣は城であった可能性があるとのことでした。
こういうのを、大陣取というのでしょう。

また、大将のいる場所―本陣を「すわり場」と言います。

なお、選挙戦で言えば、

今でこそ、有力な政党や議員は、
郊外の県でも選対本部に出来るような事務所を
県内にいくつも所有していますが、

戦前は、大物の候補でも、
臨時の選対本部として寺院等を使っていました。

自動車が普及しておらず、
都市部に人口が集中していた時代背景もあったことでしょう。

 

勢賦(勢揃・勢汰、せいぞろい)

「勢」は軍隊のことで、
勢賦とは軍勢の集団が揃(そろ)ったことです。

古来より非常の場合に軍勢が招集されたことを勢汰と言います。

現在の選挙においては、
まずは華々しい出陣式をイメージ出来るかもしれません。

また、選挙区レベルの段取の段階としては、

候補者やそのスタッフが、消防の分団や農協等、
さまざまな団体を率いる地域の顔役の方々に
選挙戦への協力を仰ぐ光景を想像します。

 

手配(てくばり)

準備を行うことです。
古くは武士が合戦に当たって諸準備・配置をすることから
来ている言葉です。

選挙戦というよりは、日常的に使われる言葉となっています。

 

手分(てわけ)

合戦の折の部署を決めることです。

目的をひとつにするものの、
それぞれの受け持ちの者に負担を分担させることです。

また、その際、攻撃・防御等を目的として責任を持って戦う場所を、
「持口(もちぐち)」と言います。

選挙戦で言えば、候補者や選挙の責任者が、
スタッフに細かい地区ごとに各種工作を割り振る光景を想像します。

 

武者屯(むしゃだまり)

軍兵が待機している場所のことです。

現在の選挙では
それほど広くはない選挙区を自動車で巡回することで、

余程の僻地でなければ
拠点を分散させるメリットを感じないのですが、

それも素人の発想かもしれません。

 

武者つかい

武者の配置し、命令を下すことです。
つまり、指揮。

現在の選挙戦では、
スタッフを配置し、
各々(おのおの)に候補者の巡回のサポートや
備品の調達等の指示を出す光景を想像します。

 

【主要参考文献】

笹間良彦『図説日本戦陣作法事典』
上山和雄『陣笠代議士の研究』
升味準之輔『日本政党史論』各巻
乃至政彦『戦国の陣形』

選挙と合戦用語 その5

松波庄九郎様(改変)

 

政党本部レベルの選挙の段取に関する用語 その5

党内での各種調整の失敗と事態の複雑化に関する用語 2

 

またしても、同じカテゴリーで回を跨ぐ(またぐ)こととなり、
大変申し訳ありません。

 

陣替(じんがえ)

布陣の場所を移し替えることを意味します。
これは合戦用語。

選挙の際には「国替え」(くにがえ)と言います。
因みに(ちなみに)、
選挙区の実質的な責任者を「国家老」(くにがろう)などと呼びます。

全国的に知名度のある候補者が、
勝てそうな選挙区で落下傘で出馬するイメージ。

 

同士軍・同士討
(どうしいくさ・どうしうち)

味方同士が何かの都合で戦い合うことを意味します。

戦を引き出すために
わざと同士討ちの演技を行うこともあり、

また、味方同士の合印がないために
間違って戦うこともありました。

現代の選挙で言えば、
同じ選挙区に同じ政党の候補者が複数名立候補するケース
これでしょうか。

 

友崩(ともくずれ)

合戦の折に一部隊が敗退すると、
それにつられて他の部隊も崩れ立つことを意味します。

敗色が濃厚になったことで、
後で勝者に言い逃れるために
抗戦を避けて戦場から逃亡するケースもありますが、

敵味方が明確な大坂夏の陣でも、

特に、世代交代で実戦慣れした兵隊の少なかった徳川方(がた)では、
退却した兵隊が後詰の部隊の陣地に逃げ込むことで
混乱が波及したそうな。

とはいえ、現在の選挙の場合は、
実際の斬り合いよりも、むしろ党内の調整の段階で、
こういうことが起こり得るのではないかと思います。

例えば、昨今のような、公示前に離党者が続出するケース
イメージしやすいかもしれません。

 

索張(なわばり)

城館を造る時、
その範囲に縄を張って、その内側に堀をめぐらしたので、
その地域を占めることを索張(縄張)と言いました。

城郭等はその縄張りによって堅固であったり
弱点を生じたりするので、
よく見極めてから行う必要がありました。

 

長篠の合戦

例え規模の小さい城であっても
その立地が交通の要衝で堅固であれば、

少数の守備兵と縄張りの防御力で
寄せ手(敵の侵攻軍)の主力部隊を釘付けに出来るので、

縄張りの担い手は、
太田道灌や山本勘助や藤堂高虎等、当時の花形の武将が多いです。

また、例えば、有名な長篠の合戦は、

武田勢が攻略にこだわった長篠城の立地は元より、

縄張りの巧みさと籠城側の善戦によって
織田・徳川の援軍到着まで持ちこたえ、

その成果として、大規模な野戦を誘発する運びとなりました。

こういう城攻めの部隊と救援軍との間で行われる野戦を、
合戦用語で後詰戦(ごづめいくさ)と言います。

後詰とは後発の部隊のことで、
攻める側の後詰は大抵は予備隊ですが、来援の側は精強な決戦部隊です。

 

『票田のトラクター』

現代の選挙では、
選挙区内での勢力図を意味するのではないかと思います。

随分昔の漫画ですが、ケニー鍋島さんの原作、前川つかささんの作画で、
若手の国会議員とその秘書の活躍を描いた
『票田のトラクター』という作品がありました。

この漫画の中で、選挙区内の各党の勢力について、
勢力が拮抗する場所も含めて、
(かなり細かい地域区分で各地区ごとに
綺麗に塗り分けられている地図が登場しました。

実際に選挙に従事する方々は、
少なくともこういう次元で票田を把握しているのかと
驚いた記憶があります。

政局が大きく動けば、
そのように色分けされたエリアの色が丸ごと塗り変わるのでしょう。

 

抜懸(ぬけがけ)

主将・部将の命令によって行動することが戦の不文律ですが、
功を焦った部将の中には、
自分の判断で奇襲攻撃を行うことがあります。

これを抜懸(駆)と言います。

味方に悪影響のない時は、時には功名と認められますが、
これによって味方を危険にさらすことが多いことで
原則としては禁じられていました。

関ケ原の徳川方の先陣争いのような
戦局とはあまり関係のない範囲での
身内同士の主導権争いもあるのですが。

現代の選挙では、
やはり党則や党の決定に背いて出馬するケース
それに当たるのではないかと思います。

先の小池百合子さんの都知事選出馬について、
当時そのような評を聴いた記憶があります。

 

【主要参考文献】
笹間良彦『図説日本戦陣作法事典』
上山和雄『陣笠代議士の研究』
升味準之輔『日本政党史論』各巻
平山優『真田信繁 幸村と呼ばれた男の真実』
二木謙一『戦史ドキュメント 長篠の戦い』
ケニー鍋島原作・前川つかさ作画『票田のトラクター』

選挙と合戦用語 その4

松波庄九郎様(改変)

 

政党本部レベルの選挙の段取に関する用語 その4

党内での各種調整の失敗と事態の複雑化に関する用語 1

 

選挙の際、組織が一枚岩ではない時には、

ひとつの選挙区で同じ政党の候補者同士が議席を争い、
最悪の場合は離党に及んで古巣と敵対することもあります。

その原因として、
大本の政党内での政策の整合性で揉める(もめる)ケースもあれば、
政党本部と地方支部の利害調整で揉めるケースもあることと思います。

こうした離合集散は、選挙せによ、武家同士の争いにせよ、
人が集まることが政治力である以上は避けられぬ宿命かもしれません。

ここでは、選挙の本番前の、
こうした各種調整の失敗に起因する離合集散にあてはまりそうな用語を
掲載します。

 

裏切(うらぎり)

味方を裏切って攻めることを言います。
大抵は、敵が利益を餌(えさ)にして裏切をさせます。

籠城のような逃げ場のない戦場で苦境に陥った(おちいった)時や、
敵が優勢で味方が劣勢の時に、
敵からの誘いによって裏切る場合がよくあります。

攻める方でも往々用いる手です。

 

多数派工作と機密資金

選挙や多数派工作としての買収は、
戦後は元より、戦前も戦前で往々に行われていました。

特に多かったのが、
旧内務省が用途不明の「機密資金」
政府の予算原案に反対の議員を買収するケース。

当時、某県の豪放な地方政治家など、地方議会の場で、
「機密資金で身動きが取れない」
といった際どい発言をしていました。

明治時代の初期議会の頃は、野党の力が非常に強く、
そのうえ格下の日本を見下す先進国の目もあったことで、

明治政府としては、
とにかく無事に政府案を通過させて無難に議会を閉幕させ、
議会が機能していることを証明するべく、
当事者は必死だったのです。

激化する民権運動のため、警視総監が過労死する時代。

戦後は、私の生まれる前に騒がれたらしい「金権政治」のみならず、

アメリカの情報公開で、
CIAが少なくとも佐藤内閣辺りまでの自民党に
秘密裡にかなりの資金援助を行っていたことが分かったそうな。

 

政策と進退と汚名

こういう汚職とは別の次元の話として、

政策の賛否で議員が踏み絵を踏まされたという点では、
私個人の記憶に残っているのが、
小泉内閣の郵政民営化問題です。

党内を割って代議士から自殺者まで出し
これで出世の芽を摘まれた大物議員も数多いたことで、

昭和の土木事業もそうですが、
その時代のパラダイムとなる政策で揉めれば、
行くところまで行くものだと思った次第。

成程、物事、綺麗事で済むのであれば、
選挙は不要かもしれません。

執行者から見れば裏切なのですが、
粛清された側としては、そうは感じていないでしょう。

 

 

鬮取(くじとり)

非合理の中に潜む(ひそむ)合理性

攻撃・退却等を決めるのに、部将の率いる隊の数が多いと、
順序を決めかねることがあります。

そうした場合に不服が出ないように籤(くじ)を作ってそれを取らせ、
その番号で順序を決めます。

これを鬮取と言います。

室町時代末期頃から軍の動員数が大規模化したので、
こういう措置が必要になりました。

これも、後述するように、
どこまで守られたかは定かではありませんが。

また、江戸時代までは、地方の利権争いで収拾が付かない場合は、
所謂(いわゆる)チキン・レースめいた荒事で決めていました。

結果は神様が決めるものだという信仰が前提にあるからです。

 

究極の選択、籤(くじ)引きと離党

現代の選挙、特に小選挙区では、

離党してでも出馬する人がいたりすることで
さすがにこういうことはやっていないと思いますが、

物事を裁くには、その過程の透明性も、
双方に文句を言わせないための権威
必要だということを痛感する次第。

因みに、サイト制作者は法学の学徒ではありません。念のため。

 

【主要参考文献】
笹間良彦『図説日本戦陣作法事典』
上山和雄『陣笠代議士の研究』
升味準之輔『日本政党史論』各巻

選挙と合戦用語 その3

松波庄九郎様(改変)

 

政党本部レベルの選挙の段取に関する用語 その3

選挙戦の規模に関係する用語

当事者としては進退のかかった大一番の選挙であっても、
急な解散や資金難等で
十分な対応が出来ない場合
もあるでしょう。

また、国政の政党本部レベルの上位組織としては
大局的な見地から応援を出し惜しむものもあるかもしれません。

無論、逆に争点の明確な国政選等の大一番では、
持てる戦力を惜しみなく投入
あらゆる手立てを講ずる筈(はず)です。
こういう総力戦を「本の合戦」(ほんのかっせん)と言います。

そもそも、上位組織が選挙戦の規模の大小を見定めるうえでも
情報収集が必要になる訳です。

こうした前提を踏まえたうえで、
選挙戦の規模や彼我の戦力分析に関係すると思われる
合戦用語を挙げることとします。

なお、今日の感覚からすれば、
見慣れない漢字や読みもチラホラ出て来ますが、

用語のよみがなを、実際に声に出して読むと、
存外、音やリズムでしっくり来るかもしれません。

 

 

小競走(こぜりあい)

両軍対峙(たいじ)しながら、全面衝突ではなく、
部分的に合戦することを意味します。

相手を全面戦争に誘い込もうとしたり、

相手の出方、実力を知りたい時に、
わざと部分的に戦って見せる方法です。

「小攻合(こせめあい)」・「端合戦(はしがっせん)」も似たような意味の言葉。

現在の選挙で言えば、大きな選挙の前哨戦となるような、
国政レベルの政党本部から観た
地方議会や中小規模の自治体首長の選挙等でしょうか。

当事者やその支援者、地元の住民としては、
公約の影響は元より、利益誘導や進退がかかっていることで、

大きいも小さいもなく必死なのだと想像しますが。

 

 

主戦(しゅせん)

戦闘の主体となる部隊を意味します。

現在で言えば、
自分の選挙区が安泰で、
他の選挙区に遊説に廻る余裕のあるような大物候補者でしょうか。

 

 

敵色(てきいろ)

敵情―敵の様子・状態を指します。
色は気配・調子で、旗色・顔色・崩色・備色・負色等、
全ての気配の意や様子を意味する言葉として用います。

方法のひとつとして、足軽を斥候として偵察させます。

主将・部将はこれをいち早く察して軍略を立てる機敏さが
要求されます。

現代の選挙で言えば、
与野党の準備態勢や、争点となる政策に対する世論等が
それに当たるのでしょうか。

報道各社の世論調査に加え、

政党独自でも永田町の内外で
さまざまな調査を行っていることと思います。

 

 

手備(てぞなえ)

旗本備え、つまり主将の陣地の軍勢のことです。

現在の選挙で言えば、
政党の最大派閥の議員やそのスタッフでしょうか。

 

 

二の合戦・三の合戦
(にのかっせん・さんのかっせん)

戦場で緒戦に引き続いて戦うことです。

プロ野球でいうところの
1日に2試合行うダブル・ヘッダー。

三の合戦は文字通り三度目の合戦。

本来はひと合戦あれば互いに息をつくのですが、
休まずに戦い合い、三度も攻防を繰り返すことがあります。

 

関ケ原

例えば、関ケ原のような大規模な遭遇戦の場合は、
当事者は、不意の戦いとはいえ、事の重要さを理解していたようです。

東西の前衛の主力が突撃と退却を繰り返して半日の間に何度も衝突し、
結果として、8000名前後の死者が出たと言います。

戦場に集結した20万弱の軍隊のうち、
大半の部隊が満足に戦っていない中でこれだけの死者が出た訳ですから、

主力部隊同士が如何に激しく戦ったかが想像出来ます。

特に敗者側の石田三成の部隊は、逃げずに陣地を死守し、
有力な部将の大半が討ち死にしました。

 

現在の選挙との比較

とはいえ、現在の選挙戦の場合はあらかじめ日程が決まっているので、

仮に一定の期間に大小の選挙が集中しても、

中央の政党本部は、
選挙戦の規模に応じて、注ぎ込む戦力の配分が出来そうなものです。

 

 

人数組・人数立(にんずうぐみ・にんずうだて)

人数の編成のことです。

選挙区レベルの運動員にも
候補者の擁立の数の勘定にも当てはまりそうな言葉だと思います。

 

 

見せ勢(みせぜい)・見せ人数(みせにんず)

軍容を誇るために
城砦(とりで)に配置して敵を威圧する軍勢のことです。

 

合戦における艤装(ぎそう)工作

実際に動員出来る力がなく、
所謂(いわゆる)ハッタリの場合は
「見せ備」(みせそなえ)と言います。

幟(のぼり)を多く立てたりして艤装します。

人の数だけでなく、物資の量の詐称も行われます。

例えば、籠城側は、米を馬に掛けることで、
城内に水の備蓄があると偽る故事もあります。

 

選挙戦における「盛況」

現在の選挙も、この種の駆け引きがあるようです。

日本もそうかもしれませんが、
むしろアメリカの選挙で行われていることで有名な手法として、

政治家の遊説の際、聴衆の動員があまり見込めない場合、
わざと小さい会場を手配して盛況ぶりをアピールするそうな。

因みに(ちなみに)、先の大統領選挙の際に言われていたことは、
こういう手法の有無はともかく、
ヒラリーに比べて、トランプの演説会の方が盛況であったとのこと。

世論調査で判断が難しい場合のひとつの指標となるかもしれません。

 

 

見繕勢(みつくろいぜい)

間に合わせのために、
一応人数だけ揃えた(そろえた)混成部隊のことです。

指揮下に入っても統制は取れないが、
一応軍容だけは部隊として見えるものです。

 

優先するのは指揮権か頭数か

現在の選挙で言えば、
或る程度の政策の不一致は度外視して結成される
選挙対策のための野党連合がその典型かもしれません。

戦いの際に、質はともかく機動的に人を集めることに意味ある、
というのは、
時代を問わないものだと思います。

なお、似たような言葉に「寄集勢」(よせあつめぜい)があります。
こちらは臨時に徴兵した正規ではない軍勢のこと。
雑多な混成部隊には違いありません。

現在の選挙で言えば、
大変失礼な言い方かもしれませんが、

政党の絶対的な指揮下にあるという意味では、

さまざまな分野から短い準備期間で擁立された
「〇〇チルドレン」と呼ばれるタイプの議員や
そのスタッフの方々がこれに近いかもしれません。

あくまで、私のイメージに過ぎませんが。

 

 

【主要参考文献】
笹間良彦『図説日本戦陣作法事典』
上山和雄『陣笠代議士の研究』
升味準之輔『日本政党史論』各巻
乃至政彦『戦国の陣形』

選挙と合戦用語 その2

MOON CHILD 様(改変)

 

政党本部レベルの選挙の段取に関する用語 その2

事前に取り決める戦術や作戦行動を示す用語・2
(し~は)

 

同じカテゴリーで説明が回を跨ぐ(またぐ)結果になり、大変恐縮です。

少しでも時代の実情に近付けるべく深く解釈しようと思うと、
却って(かえって)説明にまとまりが付かなくなるので
当方の力量不足で、何とも、もどかしい心地です。

 

 

出馬・御出馬(しゅつば・ごしゅつば)

身分の高い大将が出陣することを言います。

因みに(ちなみに)、
「馬」の字を使う背景として
身分の高い者しか騎乗が許されなかったことで、

前近代の日本において、
単騎の騎馬武者ではなく、
隊内でも命令系統のある組織としての騎兵部隊が存在したか否かについては、
この言葉がひとつの指標になるかもしれません。

また、現在の選挙では、実によく使われる言葉で、
立候補そのものを意味します。

 

陣触(じんぶれ)

出陣することを臣下に通達することを言います。

出陣を告げる際には色々な注意をも布告します。
小田原北条氏は旗差物・合印・軍装まで細かく指定しています。

陣触れは主君から部将に触れられ、
部将から配下の武将に告げられます。

口頭もありますが、多くは書状だそうな。

現在の選挙については、私はその内幕は分かりませんが、
やはり、本人が決断し、実際に秘書に通達するとなると、
その瞬間は劇的なシーンなのでしょうか。

とはいえ、進退が注目される人の場合は、
報道陣が四六時中張り付いている中で出馬の速報が出ることで、

当時のようなタイムラグはなさそうな印象を受けます。

 

長僉議(ながせんぎ)

長評定のことです。俗に「小田原評定」とも言います。
長々と議論して結局、結論が出ないうちに、
機会を逸して(いっして)しまうことを言います。

現在の選挙の直前に、離党や候補者乱立があると、
多分、その前にこれが起きているのかしらと想像します。

 

博奕軍(ばくちいくさ)

「勝敗は時の運」と言う言葉があります。

勝算があっても敵の謀略で敗れることもあり、
自滅と思っても決死の勇気を持って戦えば勝つこともあります。

どれ程入念に準備を整えても絶対的な結果は保障されない点
博奕と同じです。

そこで、運を天に任せて勝負することを博奕軍と言います。

さて、「勝敗は時の運」という、一見、無責任な言葉。

とはいえ、個人的には、
当時の実情に即した根拠がありそうにも思えます。

と、言いますのは、

当時の呼称で言うところ蝦夷(えみし)との山間部での戦いの戦訓を
長く引き摺(ず)ったことで、

それ以降、戦国時代の中頃までの軍隊は、
少人数同士のゲリラ戦のメンタリティが抜けなかったそうです。

これが意味するところは、

例えひとつの戦場で大人数で斬り合ったとしても、

その実態は、大名や有力な家臣の直属の装備に恵まれた精強な部隊以外は
有志の少人数の部隊の寄せ集めでして、

近代的な軍隊のようなレベルの
整然とした命令系統や厳然たる軍規が無い訳です。

したがって、一旦敗勢に陥れば、
踏み止まって態勢を立て直すのが難しかったものと想像します。

逆に言えば、少数でも精強で士気の高い部隊が死力を尽くして戦い抜いて
相手の戦意を喪失させ、
圧倒的に不利な形勢を引っ繰り返した戦も数多くある訳でして、

こうした不確実な要素は、今日の選挙で言えば、
政党の利益誘導の恩恵を受けていない数多(あまた)の浮動票の存在
それに該当するように思います。

 

挙旗(はたをあげる)

出陣のことです。

出陣して堂々と進軍する時に、
先頭の旗差(はたさし)が旗を掲げます。

その折には巻いていた旗紐(はたひも)をほどくとパラリと垂れ下がり、
行進すると旗がひらひら靡(なび)きます。

これを「旗を挙げる」と言い、
兵(軍)を起こすことを意味する言葉として使います。

現在の選挙では、昨今の乱立する野党のように、
新規の政党が結成される時によく使われる言葉です。

 

【主要参考文献】
笹間良彦『図説日本戦陣作法事典』
上山和雄『陣笠代議士の研究』
升味準之輔『日本政党史論』各巻
乃至政彦『戦国の陣形』
藤本正行『再検証長篠の戦い』

選挙と合戦用語 その1

サンサン様(改変)

はじめに

選挙の際、世間では
選挙区を「国」、政党の数合わせのための議員を「陣笠議員(代議士)」、
立候補を「出馬」などと呼びますが、

選挙活動で使われる、
若(も)しくは多少なりとも関係ありそうな合戦用語や使用される小道具、
さらには、言葉の本来の意味や語源等について、

以降、何回かに分けて、
細かいテーマごとに紹介していこうと思います。

 

1、用語の紹介に際して

紹介する用語の中には、イメージし易いものや
選挙以外でも使われるような馴染み(なじみ)のある言葉もあれば、
元の意味と現在の状況の差異が大きいものもあることで、

個人的には、その辺りの多様性が、存外面白いように思います。

100語程度紹介する予定につき、
選挙の流れ→五〇音順で行います。

その流れとは、

 

政党レベルの段取→選挙区レベルの選挙戦の段取→

→実際の選挙運動→形勢→結果

 

という具合に区分し、

語数が多いものについては、
それぞれのステージごとに、さらに細かく分けます。

また、残念ながら、私自身が政治活動のプロではないので、
カテゴリー区分が下手であったり、不勉強であったりしますので、

その辺りは悪しからず御願い致します。

その他、付け焼刃で余計な話も少なからずしますので、御容赦下さい。

それでは、
長い前置きとなりましたが、そろそろ本題に入ります。

 

2、政党本部レベルの選挙の段取に関する用語 その1 

事前に取り決める戦術や作戦行動を示す用語・1

 

選挙戦のアウト・ラインの決定と実行。

与野党が拮抗する選挙であれば
まだこの段階では勝敗は判然としないのでしょうが、

諸事順当に行けば、以下のような用語が使えそうなもの。

 

軍立(いくさだて)・軍法(ぐんぽう)・兵法(へいほう・ひょうほう)

戦をする方法を言います。

軍の法規やしきたり等も含むようです。

現在で言えば、政策の争点や選挙の時期、
選挙区ごとの候補者の調整等の設定でしょうか。

 

軍首途祝(いくさのかどでいわい)

出陣に当たって、縁起のよいように祝いの行事を行うことです。

室町時代以降は、出陣式を挙げるよりも、
まず敵の油断を見澄ましてこれを攻撃して、

幸先良しと祝うことが出陣の門出祝いとなりました。

現在の選挙はこの逆で、広報を兼ねて盛大に行いますね。

 

軍評議・軍評定(いくさひょうぎ・いくさひょうじょう)

軍議です。合戦についての軍略を練ったりして
意見の交換を行うことです。

選挙に限らず、現在の日本では、
人・モノ・カネを大きく動かす際には必要なプロセスです。
多過ぎても遅きに失しますが。

 

奇変を構える(きへんをかまえる)

敵に覚(さと)られぬように
敵を攻撃するための準備をすることを言います。

与党の解散権の利活用などが好例でしょうか。
逆に、準備する方は政局によってタイミングが読みにくいことで、
大変だなあと思います。

 

軍配(ぐんばい)

合戦時に於(お)ける、部隊配置を意味する言葉です。

古くより中国の兵法が入り、それに則って(のっとって)、
さまざまな部隊配置を行い、
また、主将の指揮によって、臨機応変に配置を換えました。
これを軍配と言い、その指揮を示す道具が軍配団扇(うちわ)。

また、大名・主将より軍配団扇を預かる人を「軍配者」と言います。
所謂、「軍師(ぐんし)」。

この「軍師」は、
戦国時代の初期は、各種儀式を取り仕切り、
占いや気象予想等も行いました。

早い話、当時の学術部門の何でも屋として、
斬り合いが始まるまでに
将兵の士気を出来るだけ高める役割を担っていた訳ですが、

時代が下ると、各種交渉事や城普請等、
さらに実務的・専門的なことも担うようになります。

また、もう少し入念に手配・準備・方法を試案して
配置することを、「配立(はいだて)」と言います。

現在の選挙では、選挙区と候補者を調整したり、
選挙の本部や実務の責任者等を決めたりすることでしょうか。

後、所謂「軍師」については、
吉田内閣に引導を渡して鳩山一郎に天下を取らせた三木武吉などが、
そうした人に該当するように思います。私個人の妄想話ですが。

なお、候補者の擁立で揉める(もめる)場合については、
別のカテゴリーを用意します。

 

 

【主要参考文献】
笹間良彦『図説日本戦陣作法事典』
上山和雄『陣笠代議士の研究』
升味準之輔『日本政党史論』各巻
小和田哲男『軍師・参謀―戦国時代の演出者たち』

選挙と戦争文化

acworks様(改変)

はじめに

鍋の話と並行して、時事に事寄せた話もさせて頂ければ幸いです。

先日、衆議院選挙の公示の運びとなり、
いよいよ長丁場(ながちょうば)の選挙戦が始まります。

 

1、選挙と戦争文化

さて、私自身、選挙の度に思うのですが、

関係者の皆様が、
揃いの法被(はっぴ)や幟(のぼり)を準備して
スピーカーで大声を出しながら繁華街を練り歩いたり、

国替えだの裏切りだの、天王山の選挙区だの
時の政局によって政党や議員、票田が左右される様は、

まさにテレビや映画で見る時代劇の合戦絵巻さながらのものに見受けます。

ともすれば、
我が国古来の戦争文化らしきものは、

国民が認知しやすい形としては、祭りや食文化等以外では、
例えばこういう選挙の際にもあらわれるものだと思う次第です。

事の善悪はともかく(私自身、判断する資格も能力もありません。)、

大勢の人間が必死になって取り組んだことで、
それだけ人の記憶に残りやすく
再現するうえでもイメージし易い性格のものなのでしょう。

また、何故(なぜ)合戦かと言えば、
私の友人曰く(いわく)、

御先祖様がそういうことをやっていたような
社会の上澄みの階層の人々が主役だからだろう、と、
言っておりました。

確かに、私の知る範囲の話でも、県を問わず、
郊外の地域程、そういう傾向が顕著だなあと思う次第です。

 

2、先の戦争とその影響としての文化

また、人の意識とは面白いもので、

法律で戦争行為が禁じられているとはいえ、

我が国でも、有史以来の戦争文化が、
生活のどこかしらに垣間見えるのも事実です。

例えば、昭和の時代には、
ドリフターズの関係の番組で戦前の軍歌のパロディが数多く歌われました。

プロ野球など、勝負事につき、さらに顕著でして、

例えば、広島カープの「鯉」は、
戦前の第5師団の防諜名(ぼうちょうめい・コード・ネーム)。

さらには、プロ野球では、南海ホークスを野村の陸軍、
ヤクルト・スワローズを広岡の海軍、などと呼んだそうな。

銃後の戦時体制も含めて、
当時のほとんど全ての国民がかかわった総力戦につき、

テレビ番組が何かを訴える際、

十五年戦争に付随する戦争文化が(忌まわしい側面を持つものの)、
視聴者の共感を得るための有効な手段として機能したのでしょう。

先のアメリカ大統領選挙で、
共和党のトランプが、
プロレス番組の言語で有権者に接して
有権者の支持を得たのを想起させます。

 

3、外国の戦争文化

無論、何もこういうのは日本に限ったことではありません。

戦勝国のアメリカは元より、
ドイツ陸軍でナチ時代の軍歌を継承しているようですし、
韓国でも、除隊した人々はその種の文化を大事にしているそうな。

要は、政治色の薄い領域では、

悲しい現実ではあるものの
人類の不可避な営みのひとつである戦争の普遍的な要素
そうさせるということなのでしょう。

戦争は古典とも不可分の関係にあり、
歴史の遺物となるとなおさら顕著です。

例えば、アメリカでは、

リー将軍の銅像が引き倒される騒ぎが起きていますが、
それでもアメリカ人は南北戦争関係の話―特に郷土自慢を好むそうな。

日本の戦国時代のような位置付けなのでしょう。

実際、数年前は南北戦争150周年の関係で盛大なイベントが多く催され、
この戦争に関する映画が何本も撮られています。

また、イギリスではマスケット銃の早打ちが競技になっています。

 

 

*なお、今回は、特に参考となるような文献はありません。